幸福とは? Vol.3 bOblesの遊べる家具から見るデンマーク人の幸福観
「遊べる家具」とは? bObles[1]の製品コンセプトに私は純粋な疑問を持った。なぜなら、「遊べる」と「家具」という私にとって相容れない2つの言葉のつながりにピンとこなかったからである。家具で遊ぶ?幼い頃、机や椅子などの家具に乗って遊ぶと、決まって両親に叱られた。私を含め、「家具では遊んではいけない」という固定観念を多くの人が持っているのではなかろうか。それを良い意味で壊してしまう斬新な発想がbOblesの遊べる家具に吹き込まれている。
bOblesは2006年にデンマークで生まれた子ども用家具ブランドである。今年で会社設立10周年になる。bObles誕生秘話の記事[2]とインターンシップ生のインタビュー記事[3]がコペンライフ[4]に掲載されている。
斬新な発想、それは、「柔軟性」
まず、「遊べる」という言葉通り、子どもが遊ぶことが考慮されている。 子どもたちは、遊びながら、寝そべる力(首回り)、立ち上がる力、歩く力、バランス感覚を鍛えることができる。 子どもの年齢、身体鍛えるべき部位によって、一つの製品でも使用用途を柔軟に変更できる。また、複数の製品を組み合わせることで、新たな遊び方を発見できるという柔軟性も備えている。例えば、ワニとトリを組み合わせるとシーソーになり、大きなアリクイとローラーを組み合わせることでローラーカートを作ることができる。複数のものをつなぎ、新たなものを創る。このように、製品の柔軟性を最大限に活かすことで、子どもが自発的にクリエイティビティを鍛えられることが遊べる家具の大きな魅力である。
「遊べる」というコンセプトに加え、bOblesは「家具」というコンセプトを製品に吹き込んでいる。ラインナップは、ワニ、ゾウ、サカナ、イモムシ、トリ、アヒル、カメ、アリクイ等の多様な動物が丸みを帯びた形に設計され、色はストライプがグラデーションになっている個性的なデザインで仕上げられている。私が驚いたのは、遊べる家具は子どもの日常生活をサポートする高い実用性を兼ね備えていることだ。例えば、サカナやイモムシは、イスとして、アリクイは机として子どもたちが使うことができる。さらに、積み上げて遊ぶことができる遊べる家具は、イス、机、踏み台として、子どもの身体の大きさに合わせ、柔軟な高さ調節が可能である。
遊べる家具とデンマーク人の幸福観
私は、 bOblesの遊べる家具のイベントを通して、デンマーク人の幸福観について考えた。実は、遊べる家具の「遊び」には、子どもたちだけではなく、大人も参加可能である。製品は非常に頑丈であるため、例えば、親がバランスの取り方を遊べる家具の上に乗って、子どもに見せることができる。単に子どもに遊ばせるだけではなく、親子夢中で遊びに真剣に取り組むことによって、親子の時間を大切にすることができるのだ。デンマーク人の労働時間は、日本と比べて非常に短い。一般的なオフィスワーカーは、朝8時半~9時に出社し、午後3時半から退社し始める。退社後は、家族団らんの時間を楽しむ。私には、仕事帰りのお父さんが夕食前に、子どもたちと一緒にbOblesの遊べる家具で遊ぶシーンが想像できる。
デンマークの気候は夏が短く、冬が長い。日本では、九州地方で大学生活を送っていた私には尚更そう思える。 コペンハーゲンでは、8月下旬に秋へとシフトし始め、11月の下旬には雪が降る。それに加え、空は厚い雲でどんよりし、天気も優れない。必然的に、デンマーク人の冬のライフスタイルは家の中での時間が中心となる 。bOblesの遊べる家具は、人々に「遊び」と「家具」の境界線を感じさせない。「遊び」として使用する時は、親子一緒になって、思う存分遊びに集中することができる。一方、「家具」として使用する時は、家の中でその個性的なデザインを楽しみ、イス・机・踏み台として、遊べる家具は実用性を柔軟に発揮する。つまり、遊べる家具は、日常生活の様々なシーンに溶け込むようにデザインされている。さらに、遊べる家具の対象年齢は限られていない。子どもの成長ともに、遊べる家具も形を変えるため、それを長く使用する親子は愛着を持つようになる。
単なる「おもちゃ」としてではなく、柔軟に「家具」としても長年愛用できるようにデザインされているbOblesの遊べる家具。デンマークの長い冬を乗りこえるため、「遊び」と「家具」という境界線を壊し、親子で家の中の生活を最大限に楽しもうとする発想こそがデンマーク人の幸福観の1つなのかもしれない。
参考
[1] bObles
[2] bObles誕生秘話
[3] インターンシップ生のインタビュー
[4] コペンライフ