金唐革紙調査支援とイベント通訳
北欧研究所は、デンマークコペンハーゲン市の修復士からの依頼を受け、日本における金唐革紙調査サポートを2016年秋、その後、日本の有識者を招聘しての金唐革紙の制作ワークショップのイベント立案、2017年9月18日から20日のイベント通訳を行いました。 More
北欧研究所は、デンマークコペンハーゲン市の修復士からの依頼を受け、日本における金唐革紙調査サポートを2016年秋、その後、日本の有識者を招聘しての金唐革紙の制作ワークショップのイベント立案、2017年9月18日から20日のイベント通訳を行いました。 More
2016年の日本におけるデンマーク映画の上映数は3本。他国との共同製作作品を合わても10本だ。しかもそのほとんどが単館系作品であり、マニアックな層をターゲットとしている。デンマークの映画なんて見たことないという日本人も多いだろう。しかし、実際は、奥深い歴史を持ち、同時に、今日のドキュメンタリー映画界に大きなイノベーションを起こし続けている。今回は、デンマーク映画を語るのに欠かせない5つのキーワードをもとに日本人にとってミステリアスなデンマーク映画の世界を紐解く。 More
デンマークに住み始めて、文化、特に芸術面に関する事柄で日本と大きく違うと感じることが多々あった。例えば、多くのデンマーク人は特に芸術を専門にしていなくても芸術に対する知識が豊富で芸術に対する関心・意識がとても高い。また、美に対するこだわりも強いようで、例えば私の周りの友人の多くは普段の何気ない、自分のために作る昼食一つに対してもとても見栄えを気にする。一般のデンマーク人が描いたスケッチひとつにしても、日本人には思いつかないような発想や色使いで、どうしてこのような違いが生まれるのかだろうと疑問に思うことがあった。そのような中、デンマークの文化政策について調べるうちに、感じたことや気づいたこと、それらの答えの手がかりとなり得るものがいくつかある。
まず、日本との大きな違いを感じたのは、デンマークの文化政策の根底に「文化活動に触れる機会はみなが平等に持つべきである」という概念が存在していることである。文化活動に触れる機会がみなに平等に与えられるように政策がデザインされている。例えば、デンマークでは芸術に関する主要教育機関の授業料が基本的に無料であり、入学に際しては試験を受けることが条件となっている。対して日本では、芸術専門の学校に行くとなれば普通科の学校に行くよりも多額の授業料が必要となる。この点、デンマークでは環境や境遇によらず、みなが等しく芸術活動に関わる機会が与えられていると言うことができる。さらに、デンマーク人は平均して個人が美術館や図書館といった文化施設に足を運ぶ回数が多く、ここからもいかに芸術に高い関心を持っているかがわかる。結果的に普段から芸術に携わる機会が多くなり、多くの知識を得ることができるのだと考える。しかしながら、”Compendium cultural policies and trends in Europe”によると、高所得者と低所得者の間には文化施設に足を運ぶ頻度にいまだ差があり、その差を埋めることができるような政策を取り入れることも今後の課題の一つとなりそうである。
加えて、デンマークの文化政策にかかる予算は世界の中でもトップクラスのレベルで多い。それらは文化施設や重要文化財の修復費や芸術活動に関わる宣伝費、伝統芸術の保護費そして芸術活動やアーティストを支援する費用などに充てられている。デンマークでは1960年代に「アームスレングスの原理」というものが文化政策に用いられるようになったが、これは芸術に政府や政治家の干渉が及ばないようにするための決まりである。よって、デンマーク政府は予算を使って積極的にアーティストの育成や活動、さらに芸術を後世に継承していくことにも力を入れている。その例として、多くの人が訪れる美術館や博物館を重要文化施設に指定して、それらと私的スポンサーとの連携を深めることを支援している。その形態はさまざまだが、スポンサーに免税制度を適用してアーティストの活動を支援するように促すこと、公的財団を利用してアーティストに補償金を与えるなどがこれに当たる。日本の場合を考えてみると、まだまだ国全体で文化財を守っていくという意識が低いように思われる。そのため、日本政府が文化政策にかける予算はデンマークと比べてとても少ない。これはおそらく、日本人の考えの中には「文化財は国の遺産であり、国民が協力して守っていくべきである」という発想が浸透していないからであると思われる。これとは対照的に、デンマークでは政府が中心となって芸術への支援を行い、文化を継承していくための仕組みが確立されている印象を受けた。日本ではもしかしたら「芽を摘まれてしまうかもしれない」アーティストも、デンマークでは活躍できる可能性がより確保されていると言えるかもしれない。先で述べたデンマーク人と日本人の間の美的感覚の違いについても、世間の評価を気にすることよりも自分の美学を貫く姿勢が身についていることから生じるものかもしれないと思った。
今回の調査は、デンマークと日本の文化について私が日常感じていたような小さな違いから国家の方針といったような大きな違いについて考える機会となったと同時に、デンマーク社会を更に知る良いきっかけとなった。
(鵜飼麻未、北欧研究所インターン)
参照:
私は北欧研究所で約半年間、インターンシップとしてお世話になりました。
デンマークに来るまでの北欧に対するイメージは、税金が高い、福祉国家、寒い地域などと抽象的なイメージでした。しかし、実際にデンマークで生活し、そして北欧研究所という場所で、様々な分野の調査をするにつれ、本当の北欧デンマークが垣間見えた様な気がします。 More
デンマークとスウェーデンの通信・運輸業を司っているPost Nord社は2016年の決算で15億クローネにも及ぶ赤字を報告し、政治家たちが2月22日に緊急会議を招集する事態になった。国有企業である同社は、所轄の大臣が社を代表することとなり、救済策を提示することが求められる。そのため、所轄する運輸・建設・住宅省のオーレ・ビアク・オーレセン大臣は、大きな課題を突き付けられている。 More
北欧の国デンマークは、再生可能エネルギーの普及が進んでいることで有名だ。その中心を担っている風力発電は2015年には総電力消費量の42.1%を賄うまでに成長した(ENERGYNET.DK)。世界的にもクリーンな国として知られるデンマークだが、2012年政府はエネルギー供給の100%を2050年までに再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げる長期エネルギー計画を発表した。この目標を実現するためには、再生可能エネルギーの普及といった今までのような政策だけでは難しい。鍵を握るのは電気自動車(EV)だ。
皆さん,初めまして。私は2016年4月から1年間,コペンハーゲン大学で客員研究員として都市計画の研究に取り組んでいます。このエッセーでは私のデンマーク生活,研究活動を通じて,デンマークの都市や建築について執筆したいと思います。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが,都市計画とは子供から大人,お年寄り,健常者,障がい者といったすべての主体が都市空間の中で「住む」,「働く」,「休む(憩う,遊ぶ)」,「動く」の活動が安全に,快適にできるように計画,運営するものです。そのジャンルは都市の再開発,都市交通,景観デザイン,人口問題,地球環境問題,そして法律など幅広く,対象とするエリアは中心市街地から郊外,中山間地域まであります。 More
デンマークはオーガニック食材の市場シェアが7.6%と高く(EU加盟国の中でトップのシェア率)、スーパーマーケットに買い物へ行ってもオーガニック食材のマークである「økologisk」マークの付いた食材を見かけることが多い。
また、2014年度において、年代別の統計でみたときには、29歳以下のオーガニック食材のシェアが10.3%と、ほかのどの世代よりも上回る率となっていることも分かった。[1] なぜ、今デンマークでは若年層においてオーガニック食材のシェアが広がってきているのだろうか?デンマーク政府によるオーガニック教育政策と、格安スーパーなどでの取り扱いや価格などの視点から考察する。
学校や図書館、病院など、デンマークには至る所にアートが溢れ、週末には、コペンハーゲンから北に約35km離れたルイジアナ現代美術館へ多くの人が訪れる。デンマーク人の幸福観を語る上で、アートは最も需要な要素の1つと言えるであろう。 More
デンマーク発のアウトソーシング企業であるISSは、企業戦略として積極的にダイバーシティを促進している(前回記事を参考)。この取り組みは、女性の社会進出が進み、また移民との融合を模索するデンマーク社会の縮図のように感じられる。今回は、ダイバーシティ化についてISSデンマークにインタビューを行った内容を基に、企業の多様性について考察する。インタビューは、2016年、2月26日に、コペンハーゲンにて、ISSデンマークの広報担当アンネ・アンカー氏に行った。 More
「留学」という世界的なトレンド
経済のグローバル化が進む中で、国境を超える学生が世界的に急増している。OECDの統計によれば、他国の高等教育機関で学ぶ学生数は300万人(2007)から450万人(2012)と、わずか7年で1.5倍になった。「留学[1]」は、日本とデンマークにおいても政策レベルで議論されるテーマとなっている。
“Hej hej(スウェーデン語でこんにちはという意味)~!”
地面に座ってコップに入った小銭をジャラジャラ。スウェーデンの大学都市ルンドでは、スーパーなどのお店の前では必ず「彼ら」が通行人にお金をたかっている。私は社会福祉のイメージを持っていたスウェーデンに留学に来た当初こそ、彼らが目に付き対応に困っていた。だが、だんだん無視するようになっていた。 More
『幸福とは? ギャップ・イヤーについてのインタビュー』という記事を執筆するにあたり、3人のデンマーク人に彼らの自身経験や、ギャップ・イヤーに対する考え方をインタビューした。現在、彼らはギャップ・イヤーで培った経験、キャリア、そして、考え方を存分に活かし、自分たちの道を力強く突き進んでいる。 More
コペンハーゲン近郊にあるフォルケスコーレ(小中一貫学校の義務教育機関)の庭をデザインする機会を頂いた。この話は普段仲良くさせて頂いているフォルケホイスコーレ(成人教育機関)のひとつ、クローロップホイスコーレから間接的に頂いたため、直接フォルケスコーレの方と話したわけではないが、現在使われていない庭が校舎裏にあり、そこを子どもたちが遊んだり野外学習したり出来るような場所として生まれ変わらせてほしいという要望のようである。 More
現在デンマーク音楽院大学院の作曲科へ通い、デンマークを中心としてヨーロッパなどでもコンテンポラリー音楽の作曲家として活動されている吉田文(よしだあや)さん。2016年3月には、自身の作曲した「Double-face」がDanish Radio Symphony Orchestraによって演奏されメディアでも高い評価を受けるなど、着実に活躍の場を広げられています。そんな彼女にとっての作曲活動というものについて、また音楽・作曲活動を通じたデンマークという国についてお伺いしました。
”作曲家”が普段どのように”作曲”をしているのかということについては、イメージがなかなかつかない方も多いと思います。そのプロセスから少しご紹介させていただきますね。
まずは作曲の依頼が入ります。曲にもよりますが、依頼を受ける際に演奏時間が決まっていたり、現実的な制約が先にくる場合が意外と多いです。自由に作曲するのは好きなのですが、今は制約があって、その制約を逆の発想でとらえることによって新しいアイディアが浮かぶという感じです。そしてそのアイディアを、言葉や点を使った絵などを使い、音ではないもので表現しながら膨らませていきます。
そして次に実際に音にしていくプロセスとなるのですが、これが一番時間がかかります。どのように音符を書いたら実際にどのように楽器が演奏され、どんな音楽になるかというステップを一気に想像しながら書かなければいけないので*、イメージから五線譜の上に音符を書き出す瞬間が一番大変な作業です。音楽全体の構成を作っていくのが最初のステップで、そこから少しずつ音を書いていきます。自分の中でハーモニーの表なども出来上がってきているので、それに少し数学的に番号を付けて、数列を使ったりしながら作曲したりもしますし、割と直感的にやりながらまたうまくいかなかったらやり直す、といった作業をしたりしています。この一人で作曲している時間が一番楽しいと感じますね。
ここで清書して楽譜が完成となるのですが、完成してから曲として音楽を聴くのは、実際にリハーサルなどで演奏される時が初めてになります。なので最初のリハーサルが一番怖いですね(笑) そしてこの時に現実的な問題(息つぎであったり、技術的な限界であったり) が出てきて、その調整が入ります。でもそこで、自分のアイディアを押し通すか、それとも演奏家の気持ち良さを優先するかで、作品の仕上がりは大きく異なります。私達が作曲した「曲」は、演奏家さんたちというフィルターを通さないとただの「紙」で、彼らを通して初めて私の「音楽」になるので、演奏家さんたちとの関係はとても大事だと思っています。
*オーケストラ楽曲の「Double-face」では52パートもの楽器の音をイメージしながら作曲を行っている。
私が音楽を始めたきっかけは、2歳のとき、ヤマハのリトミックのクラスに入ったのが最初で、ピアノやグループレッスン、作曲を始めたのは6歳になってからでした。作曲のレッスンは、当時のピアノの先生から勧められて始めました。年に1回ある小学生向けの作曲のコンペティションを目標として1年間を通して作曲をしていくというレッスンを、中学3年まで続けました。
そのコンペティションでは、作った曲を自分で弾くというのが鉄則だったので、「弾けないもの、弾きにくいものは書かない」ことにしていました(笑) でもそれは今の私にとってもいい経験だったと思います。弾く側、演奏する側の気持ちをそこで知ることができました。また、エレクトーンのコンクールで課題曲を自由に選べるときに自分の曲を弾いた時には、自由に弾くことができてとても楽しかったことを覚えています。何か決められたことをやるよりも、自由にやることが当時からすごく大好きでした。
当時から音楽を続けていることに抵抗が全くなかったわけではなく、むしろレッスンに行くのは嫌いでした。なぜ練習しなくちゃいけないのかもわからないし、毎日のように母と喧嘩していました。でもなんとなくですが、「辞める」という選択肢は当時から無かったですね。子供ながらに、自分にはこれ(音楽)しかないと思っていたんだと思います。小学校くらいの頃、あの子は走るのが速い、あの子は計算ドリルを解くのが早いなどそれぞれの個性がある中で、私にはそれが「音楽」だというのをどこか自覚していて、私は音楽があるから自分がここに居てもいいという風に感じていたのだと思います。
実は私、デンマークに来てから最初のコンサートがあるまでの間、しばらく作曲活動をしていなかった時期があり、自分の”存在価値”が本当にわからなくなってしまったことがありました。
当時私はデンマークでたった一人の「女性日本人作曲家」であり**、「女性作曲家」と「日本人作曲家」というふたつの大きな看板を背負わなくてはいけませんでした。その大きな二つの看板を背負っているというプレッシャーの中で、じゃあ“その中で自分は何ができるだろうか”、”自分は何者なのか”という新しい視点が生まれました。自分の中の何かが変わったわけではないですが、デンマークという土地に来て新しい視点が加わったことで、より深く自分を知ることができるようになった気がします。
その後、久しぶりに曲を書く!となったとき、「今自分は何を書いたらいいのかな?」というところから、しっかりと自分を見つめなおして書くことができました。そしてそのコンサートの後、とあるおばあさんに声をかけられて、そのおばあさんに、「とてもあなたらしい”音楽”だったわよ」と言われて、ものすごく嬉しかったのをとてもよく覚えています。そんな風に表現してもらえたのは初めてでした。“ノイズ”ではなくて“音楽”だったと言ってもらえたことがすごく嬉しくて、その時にやっと、「あ、自分はここに居てもいいんだ、私と音楽は共に在るんだな」と感じました。もう、音楽がないと、歩いているのも怖いと感じるくらい。作曲の時間をあけたことでちょっとリセットされたというか、生まれ変わったというか、新しい土地で新しい気持ちで書けた作品だったので、またそういった感情が強く出たのかなと思います。
**入学当初、女性作曲家は1名のみ、日本人はもう一人(男性)がいた。今年度は女性は3名、日本人は吉田さんのみ。全体的にデンマークの女性作曲家は少ないそうです。
デンマークという国では、音楽という業界においても、非常に個人が尊重されています。やりたくないことはやらなくてもいいし、逆にやりたいことはどれだけやってもいい。同僚たちには全く競争意識もなく、たとえば人に自分の意見をひとつのアイディアとして伝えることがあっても、決して批判することはありません。それもとても心地よく、新鮮でした。また作曲家が作曲するための期間をしっかり与えられ、さらにその期間は尊重され、そこに充分な報酬も支払われる国は他になかなかありません。デンマークは、とても“作曲家が作曲家として生きていくことができる環境がある国”であると感じます。
これから、卒業して2年くらいはまだデンマークを拠点にして活動を続けていきたいと思っています。私にとっての「作曲」とは、自分の世界を広めるためのひとつのきっかけなのかなと思います。これから、どういう風に自分の作品の可能性を広げていけるのか、自分の活動の方向性なども見極めながら、一番適した場所をゆっくり探していきたいと思っています。
吉田 文 (よしだ あや)- 作曲家
Aya Yoshida | Composer
Website: https://ayayoshidacomposer.com/
デンマークでは大学の持つ役割として、研究・教育の2大要素に加え、知識・文化のリポジトリとして市民に対してのアウトリーチ活動に重きをおくようにと、大学の運営方針を定める大学法令:「The Danish Act on Universities (the University Act)」により定められている。その為、デンマークでは研究者が直接市民との対話を行う、所謂”サイエンスコミュニケーション”がさまざまな形で活発に行われており、この”Science & Cocktails”もまたデンマーク(コペンハーゲン)を代表するひとつの若者に人気のある、そして非常にアクティブな科学者と一般市民の交流の場となっている。
北欧の国デンマークは、よく高福祉社会が注目されるが、それを支えるのは強い経済力である。IMD発表の国
際競争力指数は8位(日本27位、2015年)。また、世銀が行ったビジネス環境ランキングにおいても3位である(同34位、2015年)。豊かさの指標として引用される国民一人当たりのGDPは、日本25位に対し、デンマークは世界8位を誇る(IMF発表、2015年)。 More
【デンマークの右派と左派】
デンマークは、右派ブロックと左派ブロックがはっきりと分かれています。その一方で、両者は中道右派、中道左派と評されるように、政策面においては同じ方針を掲げることもあります。2015年6月の総選挙の際には、社会保障政策について社会民主党のトーニング・シュミット党首が高齢者医療、教育、公的調査に390億デンマーククローネを投入すると発表し、継続した福祉国家への投資を保障したのに対し、自由党は公的セクターを削減し効率化を主張していました。そんな中、右派ブロックに属し極右と評されることもあるデンマーク国民党は、移民政策や反EU政策を中心に主張を展開していました。
2015年11月と12月の2か月間のインターンシップが終わりました。インターン生として、2015年12月3日に行われたデンマークのEU国民投票についてのインタビュー調査に取り組ませていただきました。私にとってここでの活動は、学部卒業論文の執筆だけでなく、留学自体の目的達成にも重要な意味を持ちました。