EUに関する国民投票について(インタビュー4)

これまでの3つの記事とは異なり今回は反対派へのインタビュー記事です。デンマーク国民党のユース団体(DFU)のTobias Weische (トビアス・ヴァイス)さんにインタビューをさせていただきました。今年団体で最も活躍した人である ”Årets DFU’er 2015”に選ばれたユースの方です。どちらに投票するかを尋ねると、「まだ17歳だから投票できないけどできるならNOに入れるよ」と答えてくれました。歴史やニュースに興味があり親の勧めで13歳からユース団体で活動していると聞いて、デンマークの政治と学生の距離の近さに再び驚かされました。

 

上にトビアスさんも含めこれまで行った学生へのインタビュー動画を載せましたので是非生の声を聞いてみてください。また、国民投票の概要については別記事にて掲載しておりますのでぜひご参照ください。

 

以下会話形式で記述いたします。

(宮崎: A, Tobias: T)

 

A: 今回の国民投票においてどちらに投票するかとその理由を教えてください。

T: まだ17歳なので選挙権はありませんが、もしあれば反対に投票します。反対の理由は、国民保守党であるデンマーク国民党のユース団体に所属しているからです。私たちは、デンマークに関する法律はデンマークが作るべきだと考えています。もちろんEUや他の加盟国との協力は必要です。しかし、今回の国民投票で賛成が勝つと22の分野においてEUが国にとって代わって決め、将来的に議会が国民投票なしでEUに関することを決めることができるようになります。議会の多数派が移民政策をEUに委譲することも可能になるのです。

 

A: 賛成派は、民主主義である以上国民が直接ではなく議会によって決定されることは仕方がない、また国民投票を毎回行うことはコストが高すぎると主張していますがどう考えますか。

T: 国民と議会の考えが一致していれば問題ありませんが、議会よりも国民はEUに対してより批判的です。1992年のマーストリヒト条約の批准に関して、議会の多数派は賛成していましたが国民投票では反対が上回りました。2002年のユーロ導入時にも、同様に議会の多数派とは異なり国民投票で否決されました。選挙の時には様々なことが争点となり議員が選ばれるので、EUに関しての国民の意見が必ずしも反映されるわけではありません。私も国民投票ですべてを決めるべきとは考えていませんが、主権移譲に関することや移民政策など重要な問題に関してはその時の国民の判断に任せることこそが民主主義のあり方だと思います。

 

A: EUをなぜ信頼することができないのでしょうか。

T: 現在のEUは大きくなりすぎていると思います。デンマークがEUに加盟した当初は、経済的な協力を目的に作られた枠組みであって、共通の法律や警察などを持つ一つの大きな国家としての枠組みに賛同して加盟したわけではありません。協力をすることと各国が主権を持ち続けることは両立することができます。例えば、他の人の家に遊びに行くときにノックをして入ってもいいですか、ここに泊ってもいいですかと聞くことは当然ですよね。先日のパリでのテロ、1月のデンマークでのテロなど悲惨な出来事が欧州で起こっていることは、無制限に国境を開き続けたことの結果です。悲しいことではありますが欧州の中でもそこにいるすべての人々を信頼することはできません。各国がある程度独立したうえでの協力関係を考えるべきです。

 

また、デンマークのEUに対する影響力はイギリス・フランス・ドイツなどの大国と比べて低いです。デンマーク国民党は2015年の選挙で躍進し21.1%の支持を得ましたが、欧州議会に占める議席数はたったの4議席です。一方で、イギリスで7.8%しか得ていない自由民主党は12議席を有しています。EUに対して各国が同じ影響力を与えられるのであればEUの決定にも信頼ができるかもしれませんが、国の大きさが違いますし実現はしないでしょう。

 

A: どのように賛成派の層に反対派の主張を納得してもらうことができると思いますか。

T: まず、賛成になっても反対になっても欧州刑事警察機構に参加し続けることは変わらないということです。反対であっても、デンマークはノルウェーやアイルランドと同じように他の協力の条約を結ぶことができます。ですから争点はユーロポールへの参加ではなく、今後のデンマークの移民政策を議会の手にゆだねるか、国民自身の手で決めたいのかということなのです。政治家はこれまで何度も国民に嘘をついてきました。現在の首相であるラース・ルッケ・ラスムセンも、私たちDFUは支持をしていますが、選挙前は東欧から来てデンマークで働く労働者に対しての福祉を減らすといっていたにもかかわらず当選後は実行しませんでした。重要なことに関しては国民が直接決めることが必要です。

 

A: 賛成派は、ユーロポールと別の条約を結ぶのは時間もかかるし実現も難しいと主張していますがどう思いますか。

T: もちろん数年の時間かかりますが実現は当然できると思います。EUのどの国もデンマークをユーロポールから追い出したいと思っていません。デンマークは欧州の中でも重要な役割を果たしている国ですし、シェンゲン協定だけでなく北欧諸国間もパスポートなく自由に行き来することができる協定があるので、デンマークの警察協力はEUにとっても重要です。

 

A: 反対派の主張としては、ユーロポールへの参加に対してではなく、EUとの距離が近くなることに対しての反対なのですね。

T: はい、ユーロポールへの参加に反対しているわけではありません。EUとの協力に反対しているわけでも、ましてや脱退したいと思っているわけでもありません。ただ、各国が主権を守りながらであっても協力して行けることができること、そしてその方がうまくいくことをEUも政府も認めるべきだと思います。

以上

 

今回反対派の意見を聞いて、たしかに国民が抱える漠然としたEUへの不安を上手く汲んでいるように思いました。ただ、賛成派はユーロポールに入れなくなることの危険を、反対派はEUに主権を奪われることの危険を互いに主張していて、二つの議論がかみ合っていないように聞こえました。いよいよ今日が国民投票ですが結果に注目が集まります。

 

次は最後となるインタビュー記事、社会民主党の方のお話を投稿しますので是非ご覧ください。