EUに関する国民投票について(インタビュー3)下

<今回の国民投票の争点はユーロポールへの参加、ではない>

「国民の不安:1992年と2015年のEUとデンマーク(下)」

社会民主党ユース(DSU)ラッセ・ラスムセン(Lasse Rasumussen)さんへのインタビューの続きです。EUや移民に対する漠然とした不安が広がる中、政治家は国民にどのように答えているのでしょうか。また、国民が抱える不安はデンマークが4つの適用除外を獲得した1992年と同じものなのでしょうか。「適用除外を受けた4つのうち3つの分野で、デンマークが想定していた事態は起きなかったんだ」と歴史と現状を説明しながら、今回の国民投票が必要な理由を教えてくれました。

国民投票の概要、適用除外を獲得した経緯などは別の記事にて掲載しておりますのでぜひご参照ください。

以下、会話形式で記述いたします。(A: 宮崎、L: Lasse)

 

選挙の争点:EUとデンマークの関係はどうあるべきか(上)」から続き)

A: EUを巡る問題は、EU懐疑派の勢いが強まりポピュリズム政党が台頭し、民主主義の壁にぶつかっているんですね。政治学科の学生にインタビューをする中で、学生の多くは今回の投票に賛成だと聞きましたが、例えば電車の中の新聞などでは反対の意見が目立ち、ギャップがあるように思いました。

L: そうですね。教育水準や生活水準が高い人はEUに対して賛成の人が多いです。というのも、例えば学生であればEU内の大学であれば無料で留学に行くことができますし、高スキルの労働者が国を超えたビジネスをする際もEUがあった方がやりやすいです。一方で、低スキルの労働者は移民が大量に入ってくれば自分たちの職が奪われるのではないかと恐れているためEUに反対する人が多いです。

 

A: 国民のEUに対する不安感に対してメディアや政治家はどのように対応できると思いますか。

L: 一般的にデンマーク人は、人道的支援や、地球環境への配慮、インターナショナルな視野など、世界をリードするような価値に積極的だと思います。難民危機においても深刻な状況を受けて、デモや活動などが起こりデンマーク内で難民受け入れに対してやや積極的な方向への変化がありました。選挙や投票になると悲観的な見方に対して政党が煽ることが多いですが、デンマーク人が大切にする価値観に対して訴えかけていくことで、支持を広げることは可能だと思います。

 

A: 1992年のマーストリヒト条約の否決を経てエディンバラ合意によって、デンマークが4つの適用除外を獲得した時と、今とではどのように状況が異なると思いますか。

L: エディンバラ合意で、デンマークは経済通貨、欧州市民権、防衛、司法内務協力の適用除外を受けました。そのうち、経済通貨政策以外はデンマークが想定していた状況が起こらなかったのであまり適用除外があまり意味のないものになっています。

経済通貨は、たしかに財政危機が起きた時にデンマークはユーロに入っていなかったことにより恩恵を受けました。一方で、危機はEUの共通経済政策がなければもっと深刻になっていたことでしょう。その意味でデンマークは、フリーライダーとして、他の国がユーロを持っていたことが幸運でした。リアリスティックに考えると今の状況が最適だと思いますが、自己中心的だとも思うので検討の余地はあると思います。

 

欧州市民権は、当時の国民がデンマークの市民権を放棄しEU市民権を得る、ということに反対し適用除外を受けました。しかし、EUのどの国も、自国の市民権に追加してEUの市民権を得たので、想定していた事態は起こりませんでした。

 

防衛に関しても、当時デンマークはEU軍を作ることに反対し適用除外を得ましたが、EU軍も想定と異なり編成されませんでした。しかし、現在適用除外があることにより他の問題が生じています。多くの国際的な軍事活動はNATOと行われていますが、中にはEUとともに行動するものもあります。PKOや、ソマリア沖の海賊によりデンマークを含めた国々の船舶を攻撃した際などにEUとともに行動しますが、デンマークは適用除外があるために別行動をしなければなりません。さらに馬鹿けていると思うのは、NATOが指揮をとっていた活動をEUが委託された際に、それまでは他国と同じように協力し行動していても、EU管轄になったとたんデンマークは外れなくてはいけないのです。想定していたEU軍はできなかったにもかかわらず他の部分での制約があることは皮肉なことです。

 

しかし、より人々の生活にかかわっておりいま最も変えるべきなのが、今回の争点である司法内務協力です。来年からユーロポールがより強い機能を持つようになるため、今の適用除外があるままだとデンマークは抜けなくてはなりません。

ユーロポールを抜けることによる弊害の例として、メンバーであれば自由に使えるデータベースに毎回申請が必要になります。現在デンマーク警察は、1日約200件、年間だと約73000件のデータにアクセスしています。一方、ユーロポールのメンバーではないものの協力関係を結んでいるノルウェーは、年間2000件しか使っていません。毎回申請が必要であるため重要なものの時しか使わないのです。もし今回の投票の結果が反対多数であれば、デンマークはノルウェーと同じような立場になります。さらに、その協力関係を結ぶことにさえ少なくても4年はかかるのです。

さらに、協力関係を結ぶには全加盟国とそれぞれ結ばなくてはなりませんがそこにも問題があります。デンマークやイギリス、アイルランドが適用除外を受けたのはEUの加盟国がまだ少ない時でしたが、東欧に拡大する際にコペンハーゲンで当時のEU議長でありデンマークの元首相のアナス・フォー・ラスムセンの下、適用除外などを一切つけないことを条件に東欧諸国のEU加盟を認めました。ノルウェーはそもそもEUにも加盟していなので協力関係を結ぶことができましたが、デンマークは自分たちが認めなかった適用除外を全加盟国に認めてもらうことが果たして可能なのか、何年かかるのか、考えると気が遠くなります。

 

A: デンマークにとって大変な時期に入りますね。

L: 本当に大変だと思います。EUは現在でもアメリカや日本などEU外との協力をしていますが、EU内での統一があってこそ実現しています。すべての国がたくさんの適用除外、例外を主張すれば協力は機能しなくなります。今回の投票キャンペーンは反対側の政党のほうが大きくキャンペーンをしているため、賛成側にとって厳しい状況なるかもしれません。うまくいくことを願っています。

以上

 

話を聞いているうちに、国民にとって投票で何が争われているのかを理解することが困難であり、争われている事実以上にEUへの信頼や不安が結果を左右するのではないかと感じました。今後は社会民主党の政治家の方反対派政党であるデンマーク国民党のユース団体の方にインタビューさせていただきます。ぜひ読んでみてください。