COP21、気候変動政策について
気候変動政策界隈にいる人にとって、気候変動政策締約国会議(COP)は冬の訪れを告げるものかもしれない。今年もCOP関連のニュースの露出が多くなってきた11月、依頼を受けてデンマークのCOPに対する姿勢を調査することとなった。気候変動政策において重要な役割を担う機関のうち3つが調査に応じてくれた。調査過程で気になった話題を幾つか書いておこうと思う。
PSOタリフと欧州排出量取引(EU-ETS)について
デンマークはエネルギー政策としてPSOタリフ制度を採用しており、これがEU-ETSと深く関係している。固定価格買い取り制度(フィード・イン・タリフ)は発電者が発電した電気を導入した時の価格で販売することができる制度で、再生可能エネルギーシステム(RES)の普及政策として日本を含め多くの国で施策されている。デンマークの場合はPSO(パブリック・サービス・オブリゲーション)タリフ制度を利用しており、電気の市場価格と導入時の電気価格のギャップは、消費者が払う電気代に加算されたPSOタリフから割り当てられる。しかしながら近年、急激な電気の市場価格の下落によってPSOタリフが高くなっており、大きな問題となっている。どこか国内消費者以外の別の場所から資金を調達したいが、ここで重要になるのが、欧州排出量取引(EU-ETS)である。現在のところ、欧州排出量取引はCO2価格が下落しており全く機能していないが、もしCO2の値段を上げてEU-ETSが機能するようになれば、デンマークはこれにより利益を得ることができるようになるためPSO以外の新たな資金源が生まれる。2020年以降の炭素市場メカニズムがCOP21でどのように合意されるかによって、EU-ETSの重要度や整備のされ方に大きな違いが生じることが予想される。
エネルギー同盟ついて
欧州内で今後急ピッチで整備されていく存在がエネルギー同盟である。そもそもエネルギー同盟が協力体制のことなのかインフラのことなのか、定義に関しても議論されているが、ここではインフラに焦点を当てて話をしようと思う。原理はいたってシンプルで、欧州全体で電力系統を統一し、より持続可能なエネルギー供給をしていこうというものである。各国で得意としているRESの電力源は異なり、例えばノルウェーなら水力が、デンマークなら風力が、ドイツ南部ではバイオマスや太陽光が主なRESの電力源となっている。例えば風が強い日にはデンマークが他の欧州国へ送電し、曇の日であればドイツが他国から電力を受電するなど、天候や気候の状況にあわせて再生可能エネルギーをシェアすることで化石燃料のようなベースエネルギーを必要としない社会をつくることができる。エネルギー同盟に関する最近の大きなニュースは、ドイツが周辺国と繋がるための電線の建設に前向きな姿勢を見せていることである。このお陰で、今年6月欧州委員会とバルト海域とその周辺の12カ国(ドイツ、デンマーク、ポーランド、チェコ共和国、オーストリア、フランス、ルクセンブルク、ベルギー、オランダ、スウェーデン、スイス、ノルウェー)はバルト海行域エネルギー相互接続計画(Baltic Energy Market Interconnection Plan
)の合意に至った。エネルギー同盟はいよいよ現実的なものとなってきている。
原発の活用について
デンマークは反原発国であるが、実は国内エネルギーの10%ほどはスウェーデンの原発による電気によって賄われている。この現実に目を背けながら反原発を謳うことはできないという問題もあるなか、先月国内で原発を建設することに関する議論が行なわれたという情報が入ってきた。核燃料に使用されるのはトリウムという元素で、ウランを使用した原子炉のようにメルトダウンする危険性のない安全な未来の原発を開発する鍵として注目を集めている。まだ研究段階であることに加えて、反原発派の意見が圧倒的に強いデンマークで原発を建設することは現時点では考えにくいが、原発についての議論が行われたというだけでも大きな変化であることは間違いない。今後の動きに注目が集まる。ちなみに隣国ノルウェーではこのトリウムを使った原発の研究が積極的に進められている。
民間の力の積極的な利用
気候変動問題では、発展途上国と先進国の間に大きな溝が生じている。簡単にいえば、「先進国の開発のお陰でCO2排出量が増えているという事実に鑑みれば、途上国は被害者であるから、責任をとってほしい」という途上国側の見解が緊張をつくっている。これについては、先進国が途上国へ技術・資金的支援をすることで責任をとる、というのがおおかたの流れとなっており、そのための詳細なルールをCOPで話し合って決めている。これまでのところ2020年までに年1000億ドルを途上国へ拠出することが言われており、それに向けて先進国が資金提供をしているが、この拠出額をどのように計算するかも意見が別れている。途上国側の主張では公的資金のみによる拠出を累計することを求めているが、日本や欧州など先進国側は民間企業による資金提供など様々な資金源の合計を認めることを求めている。民間企業の力が強い日本にとって、この議論の行方は日本の環境政策の今後を左右することにもなりそうである。