デンマークの民主主義を考える!
デンマークは、人口566万人で九州とほぼ同じ面積の北欧の小国です。そんな日本から遠く離れたデンマークですが、2013年と2014年に世界幸福度調査で1位になるなど、世界の注目を集めています。日本でもデンマークの手厚い社会保障制度や北欧デザイン、建築などが多くの関心を集める一方で、デンマーク政治が日本で注目されることが少ないのも事実です。しかし、デンマークで生活し、その政治を見てみると、総選挙における投票率の高さや教育費削減に反対する学生のデモ活動など、成熟した民主主義の中でデンマーク国民の政治への関心が非常に高いことがわかります。それではなぜ、デンマークにおいて国民の政治への関心が高いのでしょうか。第一回となる本エッセイでは、デンマークの民主主義の歴史とデンマーク政治を動かす政党政治について、ご紹介します。
デンマークの成熟した民主主義の起源は、1848年にまで遡ります。デンマークでは、17世紀後半から絶対王政による支配が続いており、当時の人口の85%を占めていた農民階級は抑圧され、政治参与も認められていませんでした。しかし、1834年に農民の政治参与が初めて認められたことを契機とし、農民階級の自由と平等を求める農民革命が起こり、民主化運動がデンマーク全土で繰り広げられることとなります。そして、1848年、首都コペンハーゲンに集まった1万5千人の市民が王宮に向けてデモ行進を行い、他のヨーロッパ諸国で暴動や襲撃が起こる中、デンマークの絶対王政は平和的に終わりを告げました。こうして、デンマークでは農民階級の台頭による下からの民主化が成し遂げられました。
デンマークの政治体制は、複数の政党が連立を組むことで国会の議席の過半数を確保する少数与党制であり、1980年から2015年6月まで連立政権が続いていました。日本の自民党や民主党のように、デンマークでも社会民主党とデンマーク自由党という2大政党は存在しますが、右派と左派が青ブロックと赤ブロックにはっきり分かれ、ブロック内で徒党を組むことで議会運営を行っています。そのため、1党だけで議席の過半数を獲得することはなく、また総選挙において第1党となっても与党となるとは限らないのです。実際、2015年6月に行われた総選挙で第一党となったのは赤ブロック(左派)の社会民主党でしたが、政権を獲得したのは青ブロック(右派)の自由党でした。この総選挙の結果を受けて、2011年から政権を担っていた社会民主党・急進自由党連立政権(左派)が議席数を減らし、第3党となった自由党(右派)の単独政権へと4年ぶりの政権交代が行われることとなりました。現在、デンマークの国会において、与党には、自由党Venstre(34議席)、デンマーク国民党Dansk Folkeparti(37議席)、自由同盟Liberal Alliance(13議席)、保守党Det Konservative Folkeparti(6議席)、野党には、社会民主党Socialdemokraterne(47議席)、赤緑連合Enhedslisten(14議席)、Alternativet(9議席)、急進自由党Radikale Venstre(8議席)、社会人民党Socialistisk Folkeparti(7議席)、グリーンランド社会党Inuit Ataqatigiit(1議席)、グリーンランド社会民主党Siumut(1議席)、フェロー諸島社会民主党Javnaðarflokkurin(1議席)、フェロー諸島同盟党Sambandsflokkurin(1議席)が所属しており、179議席中、与党が92議席、野党が87議席と、議席数が拮抗しています。また、与党内では、政権を担う自由党(34議席)と閣外協力を行うデンマーク国民党(37議席)の議席が逆転しており、デンマーク国民党の政権に対する影響力が強まっていることがわかります。
デンマークは2001年以降、3度の政権交代を経験しており、極右政党と評されることもあるデンマーク国民党が第二党にまで躍進するなど、北欧の小国でありながらその存在感を示しています。これからのデンマークでの10カ月の交換留学を通じ、国民の生活に根差したデンマーク政治をお伝えしていきたいと思います。